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 艦名雑録 

2009年1月


 

 伊勢伊勢神宮のお膝元と言う事からだろうと思うが、1年中、しめ縄をかけっ放しにしておく風習がある.木札には「笑門」と書いてあるのが多いのだが、上記の写真のように「蘇民将来子孫家門」と言うのも多い.

 蘇民将来の子孫の家の門である、疫病神よ入るなと言う護符である.

 蘇民将来については「備後国風土記」逸文をはじめとして日本中に民話の形でたくさん残っているので御存知の方も多いかと思うが、貧乏な蘇民将来が神を歓待したのに対して裕福な弟の方は冷遇した、その結果、神は兄の一族を滅ぼしたと言うような話である.もう少し詳しい話を知りたいと思われる方は「蘇民将来」の文字をクリックしてもらうとWikipediaの該当項目にリンクするので、そちらを参照してもらえればと思うが、「笑門」と言うのも「蘇民将来子孫家門」の省略形「将門」が平将門に通じるのでそうしたと言う説があるくらい(蘇民将来の弟は巨旦Kotan将来なのだから、蘇門ならいざ知らず、将門では目印にならないのだが)伊勢では一般的なものである.

 もっとも、伊勢と言ってもなかなか広くて、この風習は南部だけのもので、北部や中部では一般的なものではない.現に、中勢と呼ばれる中部の西の端に生まれ育った私はこの風習を知らず、ある年の年末に「蘇民将来子孫家門」と書いてあるしめ縄を面白がって買い、その由来を調べたところ、上記のような事を知ったぐらいである.以来、拙宅の玄関には「蘇民将来子孫家門」の護符が年中ぶら下がることになり、正月でもないのにしめ縄が飾られていると言う一般的には非常に珍しい家となった.

 ところで、しめ縄の太い縄は雲で、垂れ下がった藁と紙垂Shideは雨と雷をあらわすと言う.ならば橙は太陽である.降雨と日照と言う農業の根幹を成すものがすべて収まっているわけだが、これは同時に日本の駆逐艦の艦名でもある.

 1年の計は元旦にありと言うが、しめ縄を枕に少し艦名とそれにまつわる話をしてみようと言うのが今年の抱負である.もっとも、飽きやすい性質であるので、どこまで続くかは神のみぞしるだが.

2009年1月1日

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 大晦日から新年にかけて、近所の神社に年越し参りに行ってきた.小丹Oni神社と言う小さな神社であるが、ここに十数年来お参りしている.昔は訪れる人も限られていたが、毎年、増え続けて、今年はかなりの盛況であった.新しき年の初めを伝える社殿の太鼓を待ちながら並ぶ人達の列は、帰る頃には石段の中断に達していたから、百人以上はいただろうと思う.

 境内では火を焚き、そこで暖を取る人、甘酒や神酒を飲む人、そして私のように昨年のしめ縄を燃やす人がいる.若い人の中には多少元気な方もおられたようだが、基本的に静謐で厳粛な雰囲気が漂っていて、人が多いにもかかわらず私の好きな場所である.

     それぞれに願えることの多からむ 年越し参りの列は伸び行く

 昨年は景気が突然にあんな事になり、慌てました.身近に就職先や再就職先を探している人がいる事もあり、例年は挨拶ぐらいで済ましているのが、今年は随分とお願いして参りました.

 一応、氏子と言う事になっておりますので、初穂料を収めて御札と直会Naoraiを頂戴して参りました.

 翌朝、近所の高台から初日を拝んで新年をスタートしたが、少し意外な事に旧日本海軍には朝日の艦名はあっても初日はない.したがって1955アメリカから海上警備隊に貸与されたキャノン/ボストウィック級(DET型)護衛駆逐艦(DE169)アサートンの後身である護衛艦はつひが、この艦名を持つ唯一の例となる.

 では、なぜ旧日本海軍に初日がなかったのだろうか.

 初日が歌語ではなかったからである.

 旧日本海軍艦艇の多くが歌語に由来する艦名を持つと言うのは、何度も述べているので省略するが、では、なぜ初日は歌語にならなかったのであろう.

 初日の出を見ると言う習慣が平安時代にはなかったからである.

 初日を拝むと言う習慣ができたのは江戸時代の後半である.それまでに太陽を拝むと言う習慣がなかったわけではない.ただ、それは恒常的に行われるものであって、正月だからと言うものではなかった.それが変化した原因は伊勢参宮の流行によってではないかと思われる.

 御蔭参りとも呼ばれる庶民の伊勢参宮は1650年にもあったが、この時の参詣者は日に数百人から2千人程度であった.しかし1705年のそれは1日に最高23万人もの人が松坂(現在は松阪)を通過したと言われ、結局、この年には300万以上の人が訪れたと言う.当時の日本の人口が2700万人と推定される事や2006年に鈴鹿サーキットで行われたF1決勝日の入場者数16万人であった事等を考え合わせると驚異的な数字である.

 そして1771年の御蔭参りは約200万人、1830年のそれは400万人を記録している.ちなみ当時の日本の人口は約3000万人である.もの凄い数の人々が伊勢に押し寄せたのだが、この人々は伊勢神宮だけを参って帰ったのだろうか.

 と言うのは、少し足を伸ばすと、これは志摩国になるのだが、二見と言う所があるからだ.五十鈴川の河口部に当たるため、ここで禊をしてから参宮すると言う習慣もあったと言うから、かなりの人が訪れたと思う.そして、この地にある夫婦岩と言うのは日の出で有名である.特に6月の夏至の前後にその岩の間から日が昇ってくる.

 また、伊勢神宮の鳥居は宇治橋を挟んで2つ並んでいるが、冬至の朝にはこの鳥居の真ん中に日の出が見える.

 この太陽信仰が御蔭参りに来られた人々に取り入れられ、初日を拝むと言う習慣につながったのではないかと思う.

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軍艦「アワビ」.

 正月にカニを食べさしてあげようと言う申し出があったので、何も持っていかないのもと思ってアワビの刺身を買って行った.ところが、食膳に上がったカニを見たら実に巨大で、驚いてしまって、こんな小さなアワビでは釣り合いが取れないと思った.

 しかし、今回の主題はカニではなく、アワビの方である.

 なぜアワビかと言うと、アワビと言う軍艦があるからである.と言っても、アワビと言う意味の艦名があると言うことであって、旧日本海軍や海上自衛隊にアワビがいるわけではない.具体的な艦名で言うとアバロンである.

 「The Dictionary of American Naval Fighting Ships」と言う本があって、アメリカ海軍が保有した全艦艇が載っている.初めて西山洋書に行って、この本が見た時には打ち震えた.この世に、こんな凄い本があるのかと思った.しかも、艦名の意味も載っている(英語だけど).だから、有り金をはたいて全7巻を買ったのだが、まさか、まさか、ネット上に公開されると思わなかった.公開されていない付録の部分も面白いので、持っている意味はあるのだが、正直なところ、あまり面白くはなかった.

 それはそうとして、この本の第1巻のはじめの方にAbalonが載っている.Aaから始まっているのだからAbaloneがはじめの方に載っていても不思議はないのだが、にも関わらず、私はAbaloneをAvalonと読んでしまった.そう言えば、アメリカのトヨタが生産している大型乗用車にそんな名前があったなと思ったぐらいだ.そして、そのまま流してしまったのだが、ある日、AvalonではなくAbaloneである事に気付いた.まさかと思ったのだが、A rock-clinging, gastropod molluskと艦名の意味が書いてある.「岩に張り付いている腹足類等の軟体動物」.間違いない.アワビだ.

 いや、だとかだとか言う艦名を堂々と使っていた海軍を持つ国の者に言われたくはないだろうが、軍艦「アワビ」とは凄い名前である.潜水艦「ナマコ」も在籍していた国なのだから、当然の事なのかもしれないが.

 ところで、実際のアバロンであるが、このような艦容である.

 SP208と言う艦番号で分かるかと思うが、哨戒艇、それも特設哨戒艇である.野暮を承知で書いておくと、特設哨戒艇と言うのは民間船舶を徴用して哨戒艇としたものである.したがって、この艇も前身は民間船舶と言うわけだが、その折の姿はこのようなものである.

 海軍時代の艦容は随分と無骨なものであるが、民間時代の姿はなかなか瀟洒なものがある.それもそのはずで、海軍に引渡される前の所有者がArnold Schlaetであったと前記の「The Dictionary of American Naval Fighting Ships」に書いてある.そして、Arnold SchlaetはテキサコTexacoの創業者の1人である.

 テキサコと言うのは、The Texas Companyの略称で、アメリカの石油会社である.2001年にシェブロンと言う会社と合併してシェブロン・テキサコとなり2005年にシェブロンとなったが、この会社は世界有数の石油会社であり、2005年の売上高は世界第6位、それも石油会社だけはなく、全企業の第6位である.その創業者の1人と言うわけだから、当然、金持ちである.

 アバロンは、この金持ちの所有する木造プレジャー・ボートとして建造された.多分、専属の乗員を持つ、贅を尽くしたボートなのだろう.瀟洒な姿も当たり前なのだろう.

 しかし、分からないのは、なぜアワビだったのかと言う事である.旧名が「The Dictionary of American Naval Fighting Ships」に書いてないのだから、Schlaetが付けたのだろうと思うが、実のところ、よく分からない.彼がシェルの創業者であったなら、別だが.


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